誕生日犬

トーマスが４歳になった。

はぁ～　もう４歳か。
どうしてこんなに、きかんぼなんだろ。

あたしがいけないのか・・・

どうせあたしは、
犬のしつけもできないダメなオトナさ。

でも、しかたない。トーマスもあきらめてよ。
あとで、ケーキ食べようね♪
ワンコ用ケーキ、買ってきたよ～

そんな誕生日の今日、
トーマスをひざに乗せながら（正しくは乗られながら）、
こんな本を読んだ。

ひとりと一匹

人気ブログ『富士丸な日々』の、
穴澤さんが書いたエッセイ。

富士丸くんへの、静かであったかい愛情が書かれてる。

穴澤さんが回想していたように、
いままで出会った犬のこと、あたしもいろいろ考えた。

それで、最近書いた短編のこと、思い出した。
ある文芸雑誌の賞に応募して、最終30編に選んでもらったもの。

ターゲットがケータイなので、超超短編ですが、
トーマスのお誕生日記念として、ここに公開。
　
　
　
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ベンジャミンのこと

　ベンジャミンのことは、いまでも気にかかっている。
　ベンジャミンとふたりで歩いた。住宅街の細い裏道を、並んで歩いた。目の前に大きな栗のいがが落ちてきて、においをかごうとした小さな鼻をさされたときには、キャンってちいさくないた。だいじょうぶ？、と聞いて、ちいさく笑った。私が外に出られなくなってからは、いつもの公園への道を想像しながら、リビングをぐるぐる歩いた。疲れたときは抱きしめて、白いふわふわの毛に、顔をうずめた。
　葬儀の日、会場の前の駐車場に来ていたことは知っている。車のなかで、短い尾っぽをふっていたのが、ちょっとだけ見えた。
　まさか、彼がベンジャミンを手放そうと考えていたなんて。最後の入院のあいだ、ベンジャミンのようすを聞くたびに、あいまいな返事になっていたのは、これが理由だったんだ。黙っていたのは、私のことを気づかったつもりだろうけれど、相談して欲しかった。私のベンジャミン。話を聞いたら、もちろん怒っただろうけれど。
　こんなことになるなら、もっと前に、誰かに託すことだってできたはずだ。兄貴とか姪のあみちゃんとか、ベンジャミンをかわいがってくれそうな心当たりは、いくつもある。
　でも、知っている誰かの、知っている家で、ベンジャミンの新しい生活がはじまったとしたら、私はそこから離れられないかもしれない。彼がそこまで考えていてくれたとは、とても想像できないけれど。
　ベンジャミンは、車で１時間ぐらい離れた、私の知らない街で暮らしている。知らない家、知らない人。ベンジャミンは、少しとまどいながら、新しい生活を始めている。あの白いふわふわの毛に、顔をうずめるのは、もう私ではない。
　できることは何もない。この手で抱きしめることはもちろん、触れることさえも。
　でも、いつまでも、見てるからね。
　ベンジャミンのことは、いまでも気にかかっている。知らない人のベンジャミンになっても、いつまでも私のベンジャミンだ。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おわり　

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ベンジャミンは、
昨年亡くなった叔母が飼っていた犬の名前。

事情があって、いまはほかの家のコになっている。

いまごろ、どうしているのかな？
新しい家族と、幸せに暮らしていることを祈って、モデルになってもらった。
モデルなので、あくまでもフィクションってことで。

でも叔母も、穴澤さんと同じような気持ちで、
ベンジャミンと暮らしていたんだろうな。

そんなことを思った、
トーマスの誕生日でした。