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何も失っていない

Blue_2

胸ポケットから取り出された万年筆の青いインクが、
さらさらと乳房のラインを描き出す。

きれいだなー、ってうっとり眺めた。

この万年筆はいままでに、
いくつのこんなラインを描いたんだろう。

そんなことを思わせる、主治医の慣れた手つき。


術前検査がすべて終わって、
手術の詳しい説明を受けたときのこと。

青い乳房のまわりに、コメントが加えられていく。

ここにあるガンをこう切って、
リンパを検査して、陽性だったら、陰性だったら、
考えられる合併症は、その対策は、と説明が続く。


左乳がん。
ガンそのものの大きさは、1.2センチ。

そのまわりを1.5センチぐるっと円を描くように、
円筒形に切る、という。

ということは、直径4.2センチの円。
切除する深さは、ガンのある乳腺による。

ガンは、乳房のほぼ中心部なので、
円筒形に切ったら、かなりの陥没だ。

切除した部分を寄せて形成するという。

半分ぐらいになるのかな。
そんな漠然としたイメージだった。


どんな乳房の、どんなサイズのガンを切ったら、
残された部分はこんな形になる、っていうサンプルは、

ない、らしい。

乳房だけじゃなく、体の大きさだって、形だって、
ひとそれぞれ違いが大きいし、

CTとかMRIデータから座標軸とってデータ化しても、

合致しないまでも疑似ぐらいで、
適合させて予測する、っていうのは難しいかもしれない。

まぁ、ある程度の幅は計算できるとしてもね。


そもそもデータ化するのに、
多くの患者の協力が必要なわけで、

集めて共有するには、
モノがプライベートすぎる。

胸の傷だけでも負担が大きいのに、
さらに心の傷を増やすようなものだ。


なんて書きつつも、
実はデータベース構築のためのプロジェクトがあるそうで、

撮影に協力しました。

なんと、3Dカメラだった。

手術の前日、
脱いで、椅子に座って。

よくやった、じぶん。


そもそも恥じらう乙女でなく、
小太りの中年女性なので、

撮影した立体画像は、驚くほど醜くて、笑った。

こんなの撮影させてごめんなさいね。
提供する側なのに、謝りたい気分だった。

あとでもう一度、術後の撮影があるはず。


それで、部分切除術後の乳房は。


麻酔が覚めた朝、
おそるおそる鏡の前に立ってみたら、

あれ?
確かに切った傷はあるけど、
ほんとに部分切除したの? という状態。


パンパンに腫れてたというのもあるけど、
サイズ感が、まったく変わらない。

もともと左のほうが大きかったので、
左右、ちょうどよくなったぐらいの印象。


部分切除の傷は、目立たないところにほんの少しで、
そこから広げて中身を切り取ったらしい。

これがひとむかし前なら、
扇状にザックリ切り取られてたんだろうな。


もちろん腫れがひいたら、しぼむかも。
放射線治療でしぼむ、っていうのもどこかで読んだし。


それにしても、
これならだいじょうぶ。

何も失っていない。

いまは。


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